みなさんは、虫歯が大きかったり、根っこの治療をしたりした後に歯の詰め物(インレー)や被せ物(クラウン)の治療をしたことがあるでしょうか。
当然ですが、虫歯を削った後や根っこの治療をした後は、歯の形になるように詰め物や被せ物の治療が必要になります。なぜなら、噛むといった機能が低下することはもちろんですが、虫歯に対する抵抗力が低い部分が露出している状態では、虫歯がさらに進行することがあるからです。このように詰め物や被せ物は、虫歯・根っこの治療の最終的な治療として位置付けられています。
詰め物・被せ物といえば銀歯のイメージが定着していると思いますが、近年、材料進化や技術の進歩により、白いプラスチックの材料やセラミックといった、より歯に近い色を再現できるものが登場しています。今回は、その中でも特に近年保険適応になった白いプラスチックの材料(CAD/CAM)に注目して説明します。
詰め物(インレー)と被せ物(クラウン)
虫歯の最終的な治療は詰め物(インレー)と被せ物(クラウン)の2つに大きく分類されます。まずはインレーとクラウンについて理解を深めていきましょう。
インレーは、虫歯を削った後にする詰め物の1つです。最近はコンポジットレジンと呼ばれる材料の改良により、虫歯を削った後、その日にプラスチックを詰めて帰宅できるということも多くなってきています。しかしながら、すべてのケースでコンポジットレジンの即日治療ができるわけではありません。そのため、それぞれの歯の状態、患者さまの咬合の状態を観察し、即日治療ではない方がよい場合にインレーによる治療は選択されます。

歯科医師の教育に用いられる教科書にはインレーとは「虫歯などが原因によって失われた歯冠の部分的な欠損に対して、適切な形態を付与してその部分に適合するように作られたもの」と記載されています。
基本的にインレーの治療には①適合する歯質が残存していること、②歯の部分的な欠損が大きく、コンポジットレジンでの修復が難しいこと、③歯と歯の間の虫歯などが歯ぐきの中にまで入っている場合などに用いられています。
①はインレーを接着させる歯が必要ということです。インレーは歯の一部分を修復する詰め物です。接着剤で付ける為には残っている歯が必要です。
②、③はコンポジットレジンの弱点が原因です。コンポジットレジンの弱点は強度が弱いということと、防湿が不十分な時に歯との接着が悪くなるという点です。虫歯が大きい場合、詰めた材料にも大きな負荷がかかります。コンポジットレジンではこの負荷に耐えきれず、欠けてしまうことがあります。また、材料が濡れている状態だと歯と接着不良が起きたり、固まらなくなったりします。虫歯が歯ぐきの中にまで及んでいる時、歯周ポケットにある歯肉溝滲出液により、このような不都合が生じます。
このように、コンポジットレジンでの即日治療の難しい症例に用いられるのがインレーによる治療です。
次にクラウンの治療についてお話しします。クラウンはいわゆる「被せ物」のことです。
歯全体を材料で完全に覆う形の治療になります。クラウンでの治療は①歯の欠損が大きく、残存する歯質が少ない場合、②プラークコントロールの観点から、クラウンの治療が望ましい場合に用いられる治療です。

①は根っこの治療が必要になるような大きな虫歯を治療した後や詰め物をしていた歯が欠けてしまい、健全な歯が少なくなってしまっている場合、クラウンを被せることで今残っている歯を保存する目的で行われます。
また、②は例えば障害も持っていて、自身でのホームケアが難しい場合に被せ物で蓋をすることで、今後の虫歯の発症リスクを抑えることを目的として行われることがあります。
このように虫歯の最終的な治療には、コンポジットレジンによる即日治療以外にインレーとクラウンの治療があり、それぞれどのような場合に適応になるのか、お分かりいただけたのではないでしょうか。
CAD/CAMって何?
CAD/CAMは「Computer Aided Design/Computer Aided Manufacture」の略です。つまり、コンピューター上で設計し、その設計データをもとに半自動で製造物を作製するシステムのことです。
CAD/CAMでインレーやクラウンを作るにはいくつかのステップを踏む必要があります。
まずはインレーやクラウンに適した形に歯を整えます。次にスキャナーを用いて、形を整えた歯をスキャニングします。あるいは、歯の型をとり模型を作製した上で、模型をスキャニングします。
どちらも良い点、悪い点がありますが、患者さまに負担が少ないのは、型取りをしない、直接スキャニングをする方法です。スキャニングしたデータを用いてインレーや被せ物の形をパソコン上で設計していきます。設計されたデータをもとに、材料のインゴット(塊)から、削り出していきます。最終的に削り出された作製物を患者さまの口腔内に装着して治療終了になります。
このように本来、人が行う工程をコンピューターが行うことで材料の無駄遣いや作業効率の改善が望めるのがメリットです。しかし、コンピューターが作製するものであるため、繊細な作業が苦手であることがデメリットです。
近年歯科医療では、このCAD/CAMシステムを用いて、インレーやクラウンを作製し、それを患者さまの口腔内に装着する機会が増えてきました。A Iが呟かれる現代社会にとって、医療でもコンピューターの介入は当然の時代の流れと言えるでしょう。
CAD/CAMインレー・クラウンのメリット
それでは、CAD/CAMでの補綴治療のメリットは何でしょうか。基本的に同じ保険診療で取り扱われる、いわゆる銀歯との違いを見ながら説明します。
①条件はあるものの、ほとんどすべての歯に対して保険適応であること
保険診療には様々なルールが存在します。CAD/CAMも例外ではありません。詳細については後述しますが、この条件をクリアすれば、どんな人にも、ほぼすべての歯で白い材料でのインレーやクラウンの作製が可能になります。
②保健適応の場合、3割負担と経済的負担が小さい
保険診療の場合、治療費の支払いが3割負担になるため、比較的安価で治療可能です。
③生体親和性が比較的高い材料であるため金属と比較してアレルギーの原因となる可能性が低い
金属を用いた場合、口腔内の歯科用金属が原因でアレルギーを惹起することがあります。症状としては、口腔内の違和感や、びらん、皮疹など様々です。しかし、CAD/CAMインレーやクラウンでは、この心配がありません。
④歯に近い色を再現できるため、審美性が優れる
金属と違い、歯と似た色のインレー、クラウンの作製が可能です。一見すると、全く気付かないという場合もあります。金属の場合は、すぐに気づきます。特に比較的前歯に近い小臼歯部などは、審美性の観点から良い選択肢になり得ます。
⑤歯の硬さと近い性質を持っているため、咬合力が加わった時の歯のひずみが小さく、自分の歯にも優しい
金属と歯では、硬さに大きな違いがあります。一般に歯と近い硬さの材料の方が、咬合力が加わった時に生じる詰め物と歯の間のひずみが小さく、クラック(ヒビ割れ)の生じるリスクが低いです。CAD/CAMではこの性質が歯に近く、自身の歯を守る観点でも非常に有用です。
⑥口腔内スキャナーで印象採得ができる
歯科医院での型取りが苦手な人も多いことでしょう。嘔吐反射が強い方も多く、苦痛に感じる人がほとんどだと思います。しかしCAD/CAMでの作製の場合、口腔内のスキャナーを用いることができるため、患者さまの負担を少なく、印象採得をすることができます。
このようにCAD/CAMでの作製では、メリットが多く存在します。
CAD/CAMインレー・クラウンのデメリット
先ほどメリットについてお話しましたが、すべての治療が良い点ばかりではありません。もちろんCAD/CAMによる治療にもデメリットがあります。ここでは、治療をより深く知っていただくために、デメリットについてもご紹介します。
①保険適応上のルールの存在
先述のとおり、保険診療を行うにはルールがあります。すべての人に例外なくCAD/CAMが用いられるわけではありません。
②耐久性が金属に劣る
材料の性質上、耐久性が金属に比べて劣ります。睡眠時の食いしばりや、歯軋りでは、体重の3倍ほどの力がかかると言われています。CAD/CAMの場合、この力に耐えられず、インレー、クラウンが欠けてしまうことがあります。
③歯の切削量が金属よりも多くなる
②と被るところがあります。CAD/CAMは耐久性で金属に劣るため、作製物そのものに厚みが必要になります。作製物に厚みが必要ということは、その分大きく歯を削る必要があります。このため、神経が生きている歯の場合、凍みる症状が出やすくなったり、最悪、神経の処置が必要になったりすることがあります。
④摩耗に弱く、経年的にすり減る
これも金属と比較して、強度が劣るため生じます。ブラッシング圧などが強すぎるとインレーやクラウンが摩耗し、再作製が必要になることもあります。
⑤変色する可能性
CAD/CAMは吸水性のある材料です。虫歯治療でプラスチックの詰め物が5年後、10年後になって、色調が合わなくなってしまった経験がある人もいると思います。それと全く同じ現象が、CAD/CAMでも生じます。
このように、CAD/CAMでの治療には、メリット、デメリット共に存在します。どれが良いかというのは、患者さま自身に決めてもらわなければなりません。自分の体に行う治療であるため、どれが良い治療なのか気になることがあれば、担当者に気軽にお尋ねください。
CAD/CAMの適応
CAD/CAMを保険で治療選択するためは様々なルールが存在すると言いました。具体的にどのようなルールがあるかをみていきましょう。
①金属アレルギーを有している方
歯科金属には多くの種類の金属があります。これらの金属に対して、アレルギー反応が生じる方もいます。皮膚科等で正しい検査を行い、該当する金属にアレルギーがあると保険診療で行うことができます。ただし、治療を行うにあたり、医科診療機関に、歯科医師から診療情報提供を行い、意見を聞く必要があります。
②前歯、小臼歯に使用する場合
③上下両側の第二大臼歯が存在し、咬合支持がある場合
過大な咬合圧が加わらないようにして第一大臼歯に治療を行うことができます。
大きくこの3つが保険診療を行う上で、存在するルールです。これらの条件をクリアして初めて保険診療でCAD/CAMを行うことができます。
まとめ
今回はCAD/CAMの特徴についてお話ししました。少しでもご理解いただけたでしょうか。保険診療で白い歯を入れることができるということは非常に魅力的です。興味がある方はお気軽にご相談ください。
しかし、最も大切なことは、そもそも虫歯にならないようにするということです。やはり、自分の歯に勝る材料は存在しません。歯を削っていけば、そこから少しずつ弱っていきます。やがて大きくなり、最悪の状態にならないためにも、日々の口腔内ケアや定期的な歯科受診が重要です。また、重症化を予防するためにも定期的な歯科医院の受診を行うことを強くお勧めします。
みなさんのご来院を心よりお待ちしております。